起死回生の一枚 – 100s『OZ』

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ozまさか中村一義が、ここまで復活を遂げるとは思わなかった。
バンドをやるべくして生まれた人間が一人で生きて行く事はつらい。
彼には椎名林檎と同じ不幸が見え隠れしていた。
椎名林檎の不幸は癒されなかったけど、彼は新しい道を歩き始める事ができたようです。


中村一義のデビュー曲「犬と猫」は非常にストレンジな構成で、それでいてポップソングとして完成されてた。
金字塔というアルバムもオリジナルなものだった。
でも、中村一義は、作品を追うごとにその輝きを失っていったのは、あれは自暴自棄だったんだろうか?
ライブをやらない「できない」という負い目を抱えながら、ようやくたどり着いた彼のバンド100s。
100s名義で活動する前、渋谷AXで中村一義名義での初ワンマンを観に行ったとき、とても違和感を覚えた。
彼が緊張してたせいもあるかもしれない。でも、ただの仲良しバンドにしか見えなかった。
それから、100s名義でドロップされたシングルはことごとくまともに聴いてこなかった。
そしてこのアルバムだ。
正直100sというバンドがここまで完成されていると思っていなかっただけに、
いままでシングルをまともに聴いてこなかった事に申し訳なさをおぼえた。
1曲目はお決まりとなったSE。
2曲目、ファーストシングルの“A”になだれ込む。
BECKの”Novacane”まんまのギターリフが流れ出す。
ベース、ドラムが入ってくる。硬い音作りは中村一義名義の後期からの流れと変わらない。
一気にサビに突入。F→C→B♭の黄金律が流れ出す。そして、「だろ?」の言葉。
彼は初めてのレコードで開口一番「どう?」と問いかけてきた。
「だろ?」の言葉とこのコード進行に、なんか泣けてくる。
3曲目、4曲目・・・と進むうちに、中村一義がやっと得たバンドという存在を大きく感じてくる。
椎名林檎はフジロックでの東京事変のライヴで、自分たちの事を「ポッと出の新人」と言ったりして、
このバンドが椎名林檎&バックバンドではないという事をことさらに主張した。
でもそれがどうにもこうにも痛々しかった。
それを中村一義は言葉でなく演奏でやってみせた。このバンドはただの馴れ合い集団じゃないって事。
なんかすごい感動してくる。バンドのテンションが最高なのが手に取るようにわかる。
彼の歌い方もすこし変わった。
演奏は『ERA』~『100s』に近い硬いサウンドメイキングなのに、歌から攻撃的な部分がとれた。
5曲目で歌われる「ここが果てでもいいや」という言葉は、もし『ERA』で歌われていたら諦めに聞こえたかもしれない。
でもここでのこの言葉は、彼が、やっと自分の居場所を手に入れた幸せに満ちてる。
山場は13曲目、”Honeycom.Ware”。
僕はこのシングルを全く聴いていなかったけど、ヤバいねこの曲。
ストロベリーフィールズまんまのオルガンから曲は始まる。
8小節で倍のビートの四ツ打ちのキックと裏打ちのハット、それに裏で刻むギターカッティングが入ってくる。
さらに8小節でピアノと3拍子で刻むタム。その後に、歌と共にスネアがインしてくる。
歌も1センテンスごとにレコーディングしたのを組み合わせてるのか、ブレスがない不思議な音になってる。
まるで良質のテクノミュージックのようで、それでいてロックンロール。
その8小節後に打ち鳴らされるオクターブのギターで、涙。
ここで7thの音を使わないで、テンションコードなんかを使ってこられたら泣くしかないじゃん・・・
バンドアンサンブルとして、どれ一つ欠けても成り立たない楽曲構成が、このバンドの存在意義を確固たるものとして感じさせる。
この一曲で、100sというバンドが完成したんだろう。
ビートルズ、ジャクソン5、そしてダフトパンクの“One More Time”。なんかいろんなものを連想してしまう。
“OZ III”を挟んだ後は、もう、ポジティブな空気感だけしか感じ取れてない。
なんかもう少し時間が必要だ。
100sというバンドの幸せな幕開けをこうやって迎えられて本当に良かったと思う。
今年の夏は彼らのライヴが観れるかな??
100s 『OZ』
1.OZ I
2.A
3.B.O.K
4.バーストレイン
5.ここが果てなら
6.なのもとに
7.OZ II
8.(For)Anthem
9.Sonata
10.やさしいライオン
11.Leek Rag’s Leek
12.Santa’s Helper
13.Honeycom.ware
14.扉の向こうに
15.OZ III
16.光は光
17.いきるもの
18.K-ing
19.またあした
20.バハハイ
21.ハルとフユ

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  • よここ

    お邪魔いたします。
    金字塔以外をまだ何もきちんと聞いていないので、OZへの期待が高まります。
    さいきん、中村氏の作品を初めてちゃんと聴いて、そりゃもう、びっくり、というか、今までみんななぜ教えてくれなかったの?というくらいの。
    ただ金字塔が完成されすぎていて、その他のアルバムを簡単に聴いてみてもなんだか物足りず、中村氏開拓は中止状態です。
    ゆっくり聴いてみます。